超常現象の謎解き

【増補改訂あり】新型コロナウイルスの大流行を予言した? 松原照子氏の各種予言を検証する

【2021年9月9日更新】近年の動向を踏まえ、本記事の内容を増補改訂しました。もともとの記事より検証内容を増やしてあります。

伝説

2020年から世界的に猛威をふるっている新型コロナウイルス。このウイルスの大流行を予言していた人物がいる。人気ブログ「幸福への近道」で自らの予言を発表している松原照子氏だ。

ベストセラーになった松原氏の著書『幸福への近道』

松原氏は幼い頃より、彼女が「不思議な世界の方々」(神様や守護霊のようなもの)と呼ぶ存在から、未来の話を聞ける特別な能力を持っていたという。これまでにもその能力によって様々な災害や出来事を予言し、警告してきた。

たとえば東日本大震災、2016年のアメリカ大統領選挙、2018年の北海道胆振(いぶり)東部地震、2020年東京オリンピックの中止、そして新型コロナウイルスの世界的大流行などだ。

松原氏の予言の特徴は、その具体性にある。地震の予言では時期と地名が明確で、ほかの災害や出来事の予言も曖昧さがない。

かつて、これほど具体的に予言を的中させ続けることができた予言者がいただろうか?

松原氏こそ、今や国内ナンバー1の呼び声も高い、日本屈指の予言者なのである。(以下、謎解きに続く)

謎解き

松原氏は2011年3月11日に起きた東日本大震災を、約1ヶ月前の2011年2月16日に予言していたとして大きな注目を集めた。そしてその後も、多くの予言を的中させ続けているという。

松原氏は自身の予言を「世見」(よけん)と呼称している。

現在は、オカルト雑誌の『ムー』で連載を持ち、著書は軒並みベストセラー。コロナ禍前には講演会や個人鑑定も大盛況という人気ぶりだった。

100年に1度といわれる新型コロナウイルスのパンデミックも見事に予言していたという。

本当だろうか? ここからは松原氏が的中させたといわれる予言を具体的に検証していく。

東日本大震災の予言

まずは東日本大震災の予言をみていこう。ネット上ではこの予言について、震災後に書かれた事後予言であるという指摘もある。ところが調査したところ、事後予言であることを示す確かな証拠は見当たらなかった。

記事を震災後に更新した記録があるとも言われるが、更新情報は、記事のカテゴリーを変更しただけでも記録されてしまう。そのため、その程度の記録では証拠にならない。また震災前に松原氏のブログ記事を転載しているブログも存在する。

よってここでは、予言は事前になされたもの、という判断で進めていきたい。予言が震災前に書かれたとするならば、問題はその内容に移る。

地震の予言で注目すべきポイントは、地震の「規模」「起きる場所」「時期」の三つ。

実際に下記の2011年2月16日の予言を確認してみると、「規模」については「大きな揺れを感じる」とある。「起きる場所」は「陸前高田」「釜石」をはじめ、東北や関東の各地の地名、「時期」は「近日中」とあり、総じてほぼ的中していると判断できる。

2011年2月16日の記事(「幸福への近道」より)

では、松原氏は「東日本大震災を予言していた」と判断していいのだろうか?

実はそう判断するにはまだ早い。的中した予言を見ているだけはわからないこともあるからだ。

予言を検証する上では、日頃からどういった予言がなされているのか、ということも重要なポイントになる。

そこで松原氏が震災以前に発表していた地震の予言を精査してみた。その結果をまとめたものが以下の表である。(予言であげられていた地名の一覧。2011年2月16日の予言は除く、2005年~2011年2月15日までの予言)

※スマホなどで閲覧の場合、以降の表は画面を横にすると、あまりはみ出さず読みやすい。

北海道 札幌、函館、室蘭、根室、釧路、十勝、苫小牧、襟裳岬、尻羽岬、宗谷岬、納沙布岬、石狩、日高、北見、留萌、足寄、初山別、伊達、夕張、帯広、足定、洞爺湖、昭和新山、野村水道、知床半島、千島列島
青森県 八戸、八甲田山、大戸瀬崎
秋田県 横手、本荘、真昼山地、出羽山地、男鹿半島
岩手県 花巻、陸前高田、久慈、釜石
宮城県 白石、石巻、気仙沼、阿武隈川、南三陸金華山国定公園、仙台湾
山形県 天童、酒田、新庄、最上川
福島県 塩屋崎、会津若松、いわき、郡山、白河、喜多方、会津本郷、猪苗代湖、安達太良山
茨城県 水戸、日立、取手、筑波、石岡、稲敷、常陸大宮、下妻、霞ヶ浦、鹿島灘
栃木県 宇都宮、足尾山地
群馬県 前橋、藤岡、伊香保
千葉県 成田、木更津、館山、銚子、千葉、茂原、船橋、浦安、勝浦、松戸、八日市場、九十九里浜、野島崎、犬吠埼
埼玉県 行田、深谷、熊谷、朝霞、浦和、狭山、川越、秩父
東京都 23区、八王子、多摩、立川、青梅、町田、東京湾、大島、新島、三宅島、神津島、小笠原諸島
神奈川県 川崎、横浜、相模原、横須賀、丹沢山、茅ヶ崎沖、三浦半島
新潟県 六日町
富山県 県名
石川県 県名
福井県 東尋坊
山梨県 甲府
長野県 松本
静岡県 伊豆、浜松、戸田、沼津、天城、伊豆長岡、伊豆諸島
愛知県 豊橋、岡崎平野、知多半島、渥美半島
岐阜県 飛騨高山、下呂、美濃、本巣
滋賀県 琵琶湖、比良山地、比叡山、大津、志賀
三重県 尾鷲、志摩、松阪、名張、鈴鹿、伊勢湾、布引山地、熊野灘
和歌山県 田辺、新宮、橋本、串本、湯浅、那智勝浦
京都府 山城
奈良県 天理、大台ヶ原
大阪府 阪南、岸和田、泉佐野、生駒山
兵庫県 三田、西脇、三木、淡路、丹波、篠山
岡山県 県名
鳥取県 県名
島根県 出雲、島根沖、焼火山
広島県 西能美島、江田島、似島、厳島
山口県 岩国、長門、下関、萩、木屋川
香川県 高松、小豆島
徳島県 美馬、日和佐、四国沖
愛媛県 松山、戸島、日振島、御五神島、佐田岬半島
高知県 南国、四国沖
福岡県 北九州、筑紫山地、玄海国定公園、志賀島、能古島、糸島半島
長崎県 雲仙天草国立公園、西彼杵半島、伊王島、五島列島
佐賀県 筑紫山地
熊本県 筑肥山地
大分県 別府、臼杵、伊予灘
宮崎県 日向、えびの
鹿児島県 大隅半島、薩南諸島、奄美大島、種子島
沖縄県 与那国島、宮古島

これを見ると、47都道府県すべてが網羅されていることがわかる。

しかも、これらの中には一回だけでなく、何度もあげられる地名もある。たとえば東北地方の場合は、確認できる限り、初出は2005年、それからの6年間で120回以上も登場する。関東地方も初出は2005年で、登場数は実に170回を超える。

単独であげられることはほとんどなく、たいてい様々な地名とセットで言及される。

東日本大震災の予言で話題になった「陸前高田」や「釜石」も、実は2005年の時点ですでに登場していた。そのときは的中しなかったため、話題になることなくひっそりと忘れ去られてしまった。ところが2011年の再登場によって結果的に注目を浴びたのだった。

このように松原氏は日頃から地震に関する予言を発表し、日本全国で地震が起きるとしていた。これを何年も繰り返しているのだから、いつか東日本大震災のような大地震が起きれば、的中するのはむしろ当然といえるのではないだろうか。

つまり「下手な鉄砲も数撃てばいつかは当たる」ということである。松原氏の予言の特徴は、その数の多さにあると思われる。

2016年アメリカ大統領選挙の予言

次に2016年に行われたアメリカ大統領選挙の予言。このときは劣勢とみられていたドナルド・トランプの当選を、同年11月2日に松原氏が予言したとされている。

しかし、これは時系列にブログの世見と当時の報道を追えば違った見方になってくる。次に示すのは、2016年における松原氏の予言と、当時の大統領選挙の情勢である。

【5月21日の世見】
「『アメリカ合衆国に初の女性大統領』ということを今日は感じません」
5月18日に、はじめてトランプが支持率で対立候補のヒラリー・クリントンを逆転したとの報道があった。
【8月13日の世見】
「『答は見えた』と誰かの声がします。『女性大統領誕生』こんな声も聞こえますが、女性大統領誕生の後に言葉が続いた気もしています」
8月に入ってクリントンがトランプに支持率で約8%の差をつけていた。
【10月15日の世見】
「女性大統領誕生は間違いないとも思える」
当時の支持率の差は7パーセント前後あり、クリントンが優勢。同月17日には劣勢を意識してトランプは「投票日前に大規模な不正投票が行われている」とツイッターに投稿。19日に行われた討論会では、選挙結果を受け入れない可能性まで示唆した。
【11月2日の世見】
「突然ですが『アメリカでは女性大統領は誕生しない』こんな声が今聞こえてきました。サテサテどうなるのでしょう?『答えはもう決まった』こんな声も聞こえます」
10月28日にFBIがクリントンの私用サーバー問題を見直すと発表。これにより問題が再燃し、トランプが支持率で猛追。11月1日発表のワシントン・ポスト紙などの調査ではトランプが支持率で逆転していた。

いかがだろうか? 書いていることが現実の動向に応じてコロコロ変わるなら、それは予言ではなく、ただの予想である。

ちなみに2012年のアメリカ大統領選挙では、同年6月13日の世見で当時のオバマ大統領が汚職で落選するかのように予言していた。

また2020年の同選挙では、当選したジョー・バイデンについて言及した世見は同年2月22日の記事のみ。このときはバイデンが大統領になれないかのように書いていた。

それもそのはずで、当時バイデンは予備選で敗退が続いていた。マスコミや評論家は彼のことを「候補としてもうおしまいだ」と評していたほどである。

もし、この2020年2月時点で、その後にバイデンが情勢を覆し、11月の大統領選挙で勝利することを予言できていれば大したものだった。しかし、松原氏にそのような予言能力はなかったようである。

2018年の北海道胆振(いぶり)東部地震の予言

次に取り上げるのは、北海道胆振東部地震の予言。これは、2018年9月6日に北海道の胆振地方で起きた最大震度7の大地震を、松原氏が予言していたというもの。

彼女は地震の2年前、2016年5月7日の世見で、胆振東部地震の震源地となった「むかわ」という町の名前をあげて地震が起きると書いていたという。

たしかに、同日の世見には「むかわ」という地名が書かれていた。けれども、あげられていた地名はそれだけではなく、他にも富良野、苫小牧、夕張岳、大雪山、石狩、当別、十勝、根室といった地名もあげられていた。

そもそも胆振東部地震で震度5以上の強震を記録したのは全部で26の地域におよんだが、そのうち上記の地名で該当したのは、むかわ、苫小牧、石狩の三つのみ。

最大震度7を唯一記録し、死者と全壊の家屋数が突出して多かった厚真(あつま)町に至っては、言及すらなかった。

5月7日の世見であげられていた地名(Googleマップを元に作成)。
胆振東部地震で最大の被害を受けた厚真町は、むかわと苫小牧の間に位置するが
松原氏の世見ではすっぽり抜け落ちている。

それでも、むかわという聞き慣れない地名をあげていただけでも、すごいことだと思われるかもしれない。

だが実はそうでもないのだ。松原氏は2005年のブログ開設当初から、毎年のように北海道の地名を(聞き慣れないものも含め)あげ続け、地震が起きると書いていた。

その数は2018年8月時点で40にもおよび(何度もあげられる重複分は除く)、都道府県単位では北海道が最も多かった。

そのため、一度に多くの地域が強震を記録しやすい大地震が北海道で起きれば、いつかは的中することがあってもおかしくなかったわけである。

東京オリンピックの予言

続いては東京オリンピックの予言。松原氏は2020年にオリンピックが中止になることを予言していたといわれている。

しかし結論から述べれば、松原氏はそのような予言をしていない。彼女がもともと言っていたのは、開催地が東京に決まる前の2012年に、「オリンピックの開催地は東京に決まるか」と会合の参加者から聞かれ、「ない」と答えたというものである。

当時は招致レースの真っ只中で、東京に決まる可能性は低いと考えられていた。そのため松原氏の答えは大方の予想と同じで意外性はなく、その後に招致が決まった時点で外れが確定していた。

けれども、松原氏は予言が外れたことを認めたりはしない。開催が決まったあとに彼女が繰り返したのは、「なぜ、あのとき『ない』と言ってしまったのか自分でも不思議」、「無事に開催されることを願っている」というような言い訳だった。

結局、開催されるのか、されないのか。彼女の予言は時勢に合わせてコロコロ変わる。開催まで1年を切った2019年9月16日の世見では、ついに開催を前提とした予言を出すに至る。

2020年の東京オリンピックでは、「猛暑やゲリラ豪雨が選手を襲う」、「台風が直撃して競技が中止になる」のだという。

この予言は2020年に開催されていれば、例年の夏を考えても当たった可能性がある。いずれにせよ松原氏は、開催されても中止されても、当たったと見られるようにしていたということである。

なお、そのほかのオリンピックについては、次のような予言と結果に終わっている。

【1988年のソウル・オリンピック】
『宇宙からの大予言』(現代書林)にて、世界情勢悪化のため参加国が激減すると予言。
参加国数は159で、当時の歴代最多記録を更新。
【2012年のロンドン・オリンピック】
同年6月7日の世見にて、同オリンピックで凶悪テロ事件が起きるかのように予言。
何も起きなかった。
【2016年のリオデジャネイロ・オリンピック】
同年7月20日の世見で、同オリンピックが大災害で中止になるかのように予言。
中止にならなかった。
【2021年の東京オリンピック】
『松原照子の聖世見』(ワン・パブリッシング)にて、開催されないかのように予言。
開催された。

これらを見ると、数で勝負しない一発勝負の「予言」では、ことごとく外すようである。

新型コロナウイルスの予言

最後に、新型コロナウイルスの予言について。松原氏はこの世界的なパンデミックを2014年の時点で予言していたのだという。

実は松原氏は、それ以前からウイルスの流行を予言し続けていた。しかし、そこに「2020年、新型コロナウイルスの世界的大流行」といった具体的な記述はまったくなかった。

以下に示すのは、松原氏の世見でウイルスについて書かれたものの一部である(タイトルと日付け)。

ご覧のように、ほぼ毎年、同じことをやり続けている。あまりにも続くため、近年は語彙(ごい)が尽きてきたのか、タイトルもかぶりがちである。

もともと、「新型“インフルエンザ”」を含む何らかのウイルスの大流行というのは、数年おきにおきるものだ。これを10年以上の期間で言い続けていれば、どこかで当たるのは当然ですらある。

必要なのは毎年外し続けても、当たったように見えるまで、曖昧なウイルスの流行予言を書き続ける精神力だけだろう。

なお松原氏は、2020年2月23日に「第13回 松原照子特別講演会in東京(4月19日開催)」の観客募集を公式サイトで始めていた。

2020年2月23日に開始された講演会の募集
(公式サイト「幸福への近道」より)

ところがそのわずか5日後の2月28日、新型コロナウイルスの流行拡大により、募集の中止を余儀なくされている。

講演会の中止を知らせる記事
(公式サイト「幸福への近道」より)

松原氏は著書『松原照子の聖世見』(ワン・パブリッシング)の前書きにて、1年以上前に大流行の様子がビジョンとして見えていたと豪語する。

それにもかかわらず、たった2ヶ月後の未来の様子は見えなかったのだろうか?

当時からみて未来を知っている現在の私たちからすれば、緊急事態宣言下で第一波のピーク時だった2020年4月19日に、東京で講演会を開催することなど不可能だと簡単にわかる。

しかし、松原氏にはそれがまったくわかっていなかったようである。

結局、ここまでの検証結果を踏まえると、松原氏の的中したとされる予言には疑問符をつけざるをえない。

それにもかかわらず、こうした人物が多くの支持者から特別な力があると思われているのだとすれば、はなはだ残念なことである。

【参考資料】

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