伝説
2004年9月、メキシコ第二の都市グアダラハラ近郊の草地に謎のサークルが多数出現した。一般に穀物畑にできる「ミステリー・サークル」とは違い、主に草地や森林にできる「フェアリー・リング」(妖精の輪)と呼ばれる現象である。
土地の所有者はこの奇妙な現象を調べてもらうため、メキシコの建築家で超常現象研究家でもあるダニエル・ドミンゲスに調査を依頼。彼はチームを編成して現場に乗り込み、4週間かけて調査を行った。
その結果、サークル周辺の草は他の草に比べて緑が濃く、葉の幅も広いことが判明。成長の度合いが他よりも高いことがわかった。また現場の上空では謎の光点も目撃されていたこともわかった。
これらのことから、サークルはUFOの着陸痕である可能性が高く、サークル周辺の草が他より成長していたのはUFOの放射線による影響だと結論づけられている。(以下、謎解きに続く)
謎解き
この現象はミステリーサークルの親戚みたいなものであるため、その原因も宇宙人によるものか人為的なイタズラの可能性が考えられがちである。
ところが前者の宇宙人だとするには証拠が乏しい。現場で目撃されたという光点は写真やビデオには撮られていない。そのためわずかな目撃情報だけでは、それが飛行機だったのか、人工衛星の類だったのか、それとも他の何かだったのかは情報が乏しすぎてはっきりわからない。
一方、後者のイタズラ説も、人が関わった形跡が見つかっていないため、証拠に欠ける。
それでは、このフェアリー・リングの正体は、いったい何なのだろうか。実はこの謎を解くべく調査を行ったのは、【伝説】に登場するドミンゲスのチームの他にもいた。グアダラハラ大学のラウラ・グスマン博士である。
彼女の専門は菌類の研究。この謎のサークルはキノコなどの菌類が原因でできるのではないかと考え、現場に乗り込んで土壌の調査を行っていた。
発見された菌糸体
グスマン博士による土壌調査ではサークルから大きな菌糸体が発見された。この菌糸体は地下に木の根や木切れなどが埋まっていて、そこを中心に成長したものと考えられた。
サークル周辺の草が他と比べて成長していたという現象も、菌類には土に養分を与えるものがあることを知っていれば説明がつく。グスマン博士は次のように語る。
木材は菌の成長を促進します。一度に多数のリングが形成されることがあるのも、木切れが埋まっているからです。科学的にはこのリングは菌類が作ったものと考えられます。
しかし、これだけではまだ証拠として弱い。土の中には数多くの菌類が生息しているが、このうちサークルを形成するのは50種ほどしか知られていないからだ。そのため現場の菌類が、この限られた種であることを確認する必要がある。
そこでグスマン博士は現場から採取したサンプルを研究室に持ち帰って分析を行なった。その結果、現場の菌類はサークルを形成する種であることを確認。これにより、今回のフェアリー・リングの原因は菌類であることが確かめられた。
放射線は検出されたのか
なおドミンゲスの調査チームは、【伝説】でも書いたとおり、サークル周辺でUFOの放射線による影響があったのだろうと推測していた。
しかしこの件について、グスマン博士が現場のサンプルを専門機関に送って分析を依頼したところ、放射線のレベルは普通と変わらないという結果が出た。つまり、放射線による影響はなかったのである。
サークル周辺の草が他より成長していたのは先述のように菌類が原因だ。地下にあるため妖精のようになかなか目には見えないが、草木の成長を促す縁の下の力持ちみたいな存在なのかもしれない。
【参考資料】
- 「都市伝説~超常現象を解明せよ!~UFO」(ナショナル・ジオグラフィック・チャンネル)
- Wiltshire Times「Fairy mysterious」(http://www.wiltshiretimes.co.uk/news/913422.fairy_mysterious/)
- MSN産経ニュース「『妖精の輪』に収穫量増やす効果」(http://sankei.jp.msn.com/region/chubu/shizuoka/100518/szk1005182110007-n1.htm)
- 『原色ワイド図鑑 海藻・菌類』(学研)