未解明現象
この世には常識では理解しがたい、とても奇妙な現象が存在する。空から魚やカエル、血、コイン、亀などが降ってくるのだ。
こういった現象は、英語で「空からの落下」を意味する「Falls From The Skies」から略語をつくり、「FAFROTSKIES」(ファフロツキーズ)と呼ばれている。
ファフロツキーズについての報告は、古くは紀元前の時代からあり、途中しばらく中断はするものの17世紀頃には復活。以後は21世紀の今日まで連綿とその報告が続いている。
超常現象研究のパイオニアであるチャールズ・フォートは、この現象に大変興味を示し、多くの事例を収集した。今日この現象が奇現象ファンの間に広く知られるようになっているのは、ひとえに彼のおかげである。
フォートは世界中からこういった怪雨現象の報告を集め、自らの著書『THE BOOK OF DAMNED』(『呪われし者の書』)や、後に続く著書の中で数多く紹介している。
現象が起きる原因についても考察を行い、ある物体がある場所へ瞬間的に移動するという概念を考え出した。これは「テレポーテーション」と命名され、今日では瞬間移動の用語としてお馴染みである。
合理的な説明
フォートの説は面白くはある。けれども合理的とは言いがたい。では他にどんな説があるのだろうか。ファフロツキーズを合理的に説明するものとしては、「竜巻説」や「鳥の食べこぼし説」、「大量発生説」などがある。実際、これらの説はいくつかの事例と合致する。
たとえば「竜巻説」だと、1913年11月にオーストラリアのニューサウスウェールズ州キリンディで、竜巻から魚が降ってきた事例がそうだ。1918年8月にもイギリスのサンダーランドにあるヘンドン地区で、長さ7.5センチほどの玉筋魚(いかなご)が竜巻に巻き上げられて降っている。
またイギリス・マージーサイド州の住宅街で起きた事例では、池の水と魚が竜巻によって大量に巻き上げられている様子が目撃されている。巻き上げられた水と魚は、約2㎞離れた運動場に降っていたことが後に判明。
しかしこの事例の場合、魚が降ってきた運動場で竜巻が観測されていなかったため、2㎞離れた地点での目撃情報がなければ未解明となっていた可能性がある。
次に「鳥の食べこぼし説」。降ってきたものが、鳥の餌になるもので数が少なければ、鳥が上空で落としてしまった可能性が考えられる。
最後は「大量発生説」。これはカエルの説明として有効だ。長年、世界中を飛び回り、カエルの研究を続けているイギリス、ケント大学のリチャード・グリフィス博士によると、一般によく見かけるヨーロッパ・ヒキガエルなどは非常に繁殖力が強く、短期間で莫大な数に増えることがあるという。
たとえば気候の変化で、繁殖したカエルが集団(多いときは1万5000匹にもなる)で水場を離れ、人間に目撃されるようなところに突然現れれば、事情を知らない人なら空から降ってきたと勘違いしてもおかしくはない。
実際、カエルの目撃例の中には、空から落下してきたところを目撃していない場合がけっこうある。このような場合はカエルの出所を空に求めるのではなく、より可能性の高い水場などに求めるほうが合理的だと考えられる。
それでも謎は残る
しかし上述の合理的な説明にも弱点はある。降ってきた生物が、落下地域から数十キロ(場合によっては数百、数千キロ)も遠く離れた場所にしか生息していなかったり、カエル以外の生物が大量に降ってきたり、あるいは特定の場所に限定して何度も降ってきたり、といった事例などを合理的に説明できないのだ。
そういったファフロツキーズの原因は不明である。まさに「不思議」としかいいようがない。もしかしたら将来、新たな証拠が見つかり、謎が解明される可能性はあるかもしれない。けれども永遠に謎のままの可能性もある。
残念ながら現状で謎解きはできないものの、ここでどんな事例があるのか紹介することはできる。以下では、ファフロツキーズの未解明事例を各種類別にまとめてみた。
未解明のファフロツキーズ
魚介類
1828年: アメリカのメリーランド州ケンブリッジで、ジョセフ・ミューズが数百匹もの魚が降ってきた怪現象を報告している。魚の体長は10センチから18センチほどだった。
1830年: インドで腐りかけの魚が空から降ってきた。このときは魚が鳥の群れのように落下してくるところも目撃されている。
1833年: インドのフッテプールでは、日干しになった魚が3000匹から4000匹も空から降ってきた。
1859年2月11日: イギリス・南ウェールズ地方のマウンテン・アッシュでは、最長で13センチほどの魚の雨が10分の間隔をあけて2度も大量に降ってきた。その結果、現場は縦約73メートル、横約11メートルにわたって魚で埋め尽くされた。後の調査で降ってきた魚はヒメハヤ(コイ科の魚)やトゲウオであることが判明している。
1918年8月: イギリスのサンダーランド周辺では、ミイラ化したウナギが10分間降り続いた。
1939年9月: グアム島で、ほとんどヨーローパにしか生息していないテンチ(コイ科の淡水魚)が雨のように降ってきた。
1948年6月: イギリス、ハンプシャーのバートンにあるゴルフ場では、元アマチュア・ゴルフチャンピオンのイアン・プティが妻とゴルフをしていた際、空から数百匹の生きた魚が降ってくるのを目撃。当時、空には雲ひとつなかった。
1984年5月:イギリス、ロンドンのイーストハムで空から魚が降ってきた。このときの魚は回収されて写真に収められている。
1989年: オーストラリア・クイーンズランド州イプスウィッチにあるハロルド・デゲンの自宅庭の芝生が約800匹ものサーディン(小型のイワシ)で覆われた。魚は小雨の最中に空から降ってきた。
カエル
1922年: 9月5日付けの『デイリー・ニュース』紙によれば、フランスのシャロン=シュル=マルヌ(現・シャロン=アン=シャンパーニュ)で、2日間にわたりヒキガエルが降り続けたという。
1954年6月12日: イギリスのバーミンガム市サトン・パークで、シルヴィア・マウディが小さな息子と娘を連れて雨宿りをしていると、何百匹ものカエルが空から降ってきた。カエルは往来の人々の傘に当たって跳ね返り、地面に落ちるとピョンピョンと跳び回ったので気味悪がられた。
1969年: イギリスの著名な新聞コラムニストであるヴェロニカ・パプワースによれば、彼女が住んでいたイギリス・バッキンガムシャー州のペンという町で、数千匹ものカエルの雨に見舞われたという。
ワニ
1877年: アメリカ・ノースカロライナ州のJ・L・スミス氏が所有する農園に、長さ30センチほどの小さなワニたちが降り注ぐ事件が発生。ワニたちは着地するも無傷で、その辺りを徘徊しはじめた。
1893年: サウスカロライナ州チャールストンにあるウェントワースとアンソン通りの角では、ワニが一頭、空から落ちてきた。
亀
1894年5月11日: ミシシッピ州ボヴィナで、15センチから20センチほどの氷塊に閉じ込められた亀(ゴーファー・タートル)が降ってきた。
虫
1811年: ザクセン(1806年から1918年までドイツに存在した王国)では、幼虫が大量に空から降ってきた。
1858年5月: フランスのモルターニュではカブトムシの幼虫が大量に降ってきた。
鳥
1896年11月: アメリカのルイジアナ州バトンルージュで、死んだ鳥(野ガモ、ネコマネドリ、キツツキなど)が大量に晴天の空から降ってきた。
1933年: アメリカ・マサチューセッツ州ワーセスターで氷漬けの鴨の群れが降った。
植物
1977年3月13日: イギリスのブリストルで、榛(はしばみ)の実が空から降ってきた。この不思議な雨に遭遇したアルフレッド・オズボーン夫妻によれば、榛の実は推定で350個から400個はあったという。現場の道路には、この実がなる木は一本もないばかりか、実がなるのは9月か10月頃であることがわかっている。また空は雲がひとつあった程度で事実上晴れわたっていた。
1979年2月12日: イギリスのサザンプトン郊外に住むローランド・ムーディ夫妻は、雪と強風が吹きすさぶこの日の朝9時半ごろ、自宅裏にある温室の中で苗木を植えていた。すると突然、奇妙な出来事が起きた。
夫妻によれば、奇怪な音を聞いて頭上を見上げてみると、ガラスが一面、ゼリーにくるまった芥子菜(からしな)の種子で覆われていたというのだ。このファフロツキーズは翌日も続き、大豆とトウモロコシ、そしてインゲン豆が降ってきた。
この時は隣に住むゲール夫妻も目撃しており、庭先に出てみると空豆がひと塊になって降ってきたので驚いたという。また、ムーディ家のもう一方の隣に住むストックリーも、この時の様子を覚えており、次のように語っている。
玄関のドアを開けるたびに、空豆がどさどさ降ってきたわ。私たちは文字どおり空豆に降りこめられたわけね。廊下にも入ってくるし、台所にも飛び込んできたの。10ヤード(約9メートル)は離れていたと思うけど、すごい速さで飛んできたのよ。
実に奇妙な話だが、この話をさらに奇妙にするのが、これらの落下物が降りそそいだのは、ムーディ家と、その両隣にあるゲール家、ストックリー家の3軒だけだったという点だ。
当惑した3軒の住人たちは種子や豆を集めはじめ、その量は計25回の降雨で約4.5キロにもなったという。そして、みんな倹約家で庭いじりが好きだったため、それらを自分たちの家の庭に植えてみたそうだ。
すると大豆も、インゲン豆も、芥子菜も、みんなちゃんと生えてきたという。ちなみにストックリーはこの天から授かった作物の一部を冷凍庫で保存して、奇現象の証拠としている。
年月日不明: イギリスのランカシャー州アクリントンにあるヘイソンホワイト夫妻の家では、深夜にリンゴが降った。夫のデレクによれば、リンゴは「ボンッ、ボンッ」という音を屋根に響かせながら2時間ほど降り続けたという。
翌朝になって被害を確かめるため庭に出た際には、足首まで埋もれるほど大量のリンゴで埋め尽くされているのを目撃。隣の家の庭にも2、3個落ちていたが、ほとんどは夫妻の家にのみ落ちていたという。
そのときの光景は、向かいの家に住むジョアン・コークも目撃していた。彼女は深夜に、ヘイソンホワイト夫妻の家のほうから奇妙な音がするのを1時間半ほど聞いており、翌朝、真相を確かめるために外を見た際には、夫妻の庭に大量のリンゴが落ちているのを目撃した。
ジョアンは次のように語る。
びっくりしたわ。リンゴよ。アドリエンヌの庭にだけ大量のリンゴが落ちていたの。リンゴの種類はいろいろあったわ。埋まっているものもあった。あんな光景は見たことがないわね。
後の調査によると近くにリンゴの木はなく、収穫期でもなかった。雨は降っておらず、無風。事件が起きた時間の上空の飛行記録もなかった。
金属
紀元前54年: 南イタリアのルカニアで、四角い形をしたの鉄の雨が降った。
1953年: アメリカのコネチカット州ニューヘブンでは、銅の欠片が雨のように降りそそいだ。
1959年5月15日:アメリカのミズーリ州ロックヒルで、農夫のウォレス・ベーカーがトラクターに乗っていたところ、空からチェーンが降ってきてトラクターに当たった。
2005年7月: アメリカのテキサス州では、ボールベアリングのような金属球が空から降ってきた。この金属球の落下を目撃したペニーによれば、落ちたのは彼の職場の隣にある駐車場で、1センチほどの深さでアスファルトにめり込んでいたという。
驚いたペニーは空をすぐに見上げたが飛行機などは飛んでおらず、付近には電線や木などもなかった。 ちなみにこの金属球を拾い上げてみたところ、かなりの熱を持っていたそうだ。
お金
1968年: イギリス南東部にあるラムズゲート市では、空から、4、50枚のコインが降ってきた。
1995年2月21日: イギリス、オックスフォードシャー州キドリントンでは大量の10ポンド紙幣が空から降ってきた。
1995年3月24日: アメリカ、マサチューセッツ州イースト・ボストンにあるマクレラン・ハイウェイでは、走行中の複数のドライバーたちが緑色の雲のようなものが落下してくるのを目撃。よく見ると、それは一塊になった紙幣だった。
警官が回収して紙幣がどれくらいあるか計算したところ、7000ドル以上あったという。なお警察は事件後、空から降ってきた大金を保管していたが、落とし主からの連絡はなかった。
氷塊
1800年頃: インドのセリンガパタムで、象ほどの大きさがある巨大な氷が降った。
1976年3月7日: アメリカ・ヴァージニア州ティンバービルにあるウィルバート・カラーズの家では、夜にバスケットボールほどの大きさの氷塊が屋根を突き破って空から降ってきた。
地元のカール・ホッティンガー警部が、コロラド州にあるチャールズ・ナイト博士の大気研究所国際センターに分析を依頼したところ、落下してきた氷塊は、自然に降ってくることがある雹(ひょう)とは内部構造が明らかに違うことが判明。
また飛行機から落ちてきたのではないかという意見もあったが、当日の夜には上空を飛んでいた飛行機はなく、氷塊の内部から砂利も見つかっていることから、その可能性はないと考えられている。
【参考資料】
- Charles Fort『THE BOOK OF DAMNED』(Cosimo)
- Charles Fort『LO!』(Cosimo)
- 『Fortean Times』(November 2005)
- Marguerite Wolf「The Charles Fort Files」
(http://www.dragonrest.net/fortfiles/falls.html) - Troy Taylor「MYSTERIOUS FALLS FROM THE SKY!」(http://www.prairieghosts.com/falls_sky.html)
- Stephen Wagner「Weird. Weird Rain」(http://paranormal.about.com/od/earthmysteries/a/Weird-Weird-Rain.htm)
- プリニウス『プリニウスの博物誌Ⅰ』(雄山閣出版)
- マイク・ダッシュ『ボーダーランド』(角川春樹事務所)
- サイモン・ウェルフェア、J・フェアリー『アーサー・C・クラークのミステリーワールド』(角川書店)
- 「アーサー・C・クラークのミステリーワールド」(ミステリチャンネル)
- アーサー・C・クラーク『THE ミステリーサークル』(パック・イン・ビデオ)
- J・ミッチェル、R・リカード『怪奇現象博物館―フェノメナ』(北宋社)
- コリン・ウィルソン『超常現象の謎に挑む』(教育社)
- ムー特別編集『世界奇現象大百科』 (学研)
- 並木伸一郎『世界奇現象ファイル』(学研)
- 並木伸一郎『世界怪奇事件ファイル』(学研)
- 羽仁礼『超常現象大事典』(成甲書房)
- Jerome Clark『Unexplained!』(Visible Ink Press)
- リン・ピクネット『超常現象の事典』(青土社)
- ジョン&アン・スペンサー『世界の謎と不思議百科』(扶桑社)