チリ海軍が撮影したUFO映像

伝説

2017年1月、チリでUFOを研究する政府系機関「CEFAA」(セファー / 空中異常現象研究委員会)が、過去2年間にわたって調査したにもかかわらず、その正体がわからなかったというUFO映像を公開した。それが次の動画だ。(フルバージョン)

Chile Helicopter UFO – FULL (see Leslie Kean's article for backstory)

こちらは短縮バージョン。謎の黒い飛行物体から奇妙な細長い物体が放出されている。

Navy clip first explusion (see Leslie Kean's article for backstory)

これは2014年11月11日に、チリ海軍のヘリコプターに搭載されている赤外線カメラによって撮影されたものだという。

ヘリにはパイロットとカメラをテストする技術者が乗っていて、当日は、チリの首都サンティアゴの西にある海岸沿いをパトロール中だった。そうした中、13時52分、技術者が奇妙な物体が飛行していることに気がついた。

その物体にはパイロットも気がつき、最初は肉眼で確認できたという。物体までの距離は、速度と高度から推測して、およそ55~65キロと見積もられた。

そこで技術者はカメラを物体に向け、よりはっきり撮影可能な赤外線モードに切り替えてズームイン。そうして撮影されたものが上で紹介した映像である。

パイロットたちは、奇妙な物体の報告をしようと近くにあった2ヵ所のレーダー基地に連絡をしたが、基地の方ではレーダーでヘリを確認できたものの、問題の物体については確認できなかったという。

また当日には、問題の物体が飛行していると思われた場所を飛行する民間機、および軍用機の記録もなく、まったくの未知の存在だということもわかった。さらにパイロットたちは無線を使って謎の飛行物体と通信を試みようとしたが、反応はなかった。

撮影は約9分間にわたって続けられたものの、最後は雲に隠れて追跡できなくなってしまったため、やむなく撮影はそこで終了した。

一体、謎の物体の正体は何だったのだろうか? 撮影された映像はCEFAAに提出され、専門家たちによって分析された。ところが、その正体についてはまったくわからなかったという。まさに未確認飛行物体である。(以下、謎解きに続く)

謎解き

YouTubeに公開された映像は、これまでに再生回数が250万回を超え、世界中で話題となっている。ところがこの映像については、2017年1月の段階で詳しい検証が行われ、その正体と考えられるものがすでに指摘されていた。

映像を詳しく検証したのは、アメリカの超常現象を検証するフォーラム「メタバンク」の主宰者ミック・ウェストと、同フォーラムの参加者たち。彼らによれば、残された飛行記録から謎の飛行物体の正体はイベリア航空の「IB6830」便の可能性が高いという。

このIB6830便は、サンティアゴのアルトゥーロ・メリノ・ベニテス国際空港からスペインのマドリードへ向かうもので、ヘリが目撃した時間帯に撮影方向の空を飛行中だった。

下の図は、当日のIB6830便の飛行経路を青い線で示し、ヘリの飛行経路を白い線で示したもの。

2機の飛行経路と目撃場所

2機の飛行経路と目撃場所(Google Earthより)

続いて下に示すのは、ヘリから撮影していた方向を立体的にグーグルアースで再現したもの。IB6830便の飛行経路と高度も立体的に示すと、撮影方向にIB6830便が飛行していたことがわかる。

ヘリからの眺めを立体的に再現したもの。

ヘリからの眺めを立体的に再現したもの。(Google Earthより)

IB6830便は、最初に目撃された13時52分頃には、ヘリから約60キロ離れたところを飛行していた。しかし時速600キロ以上の速度で飛行していたIB6830便は、5分も経てば50キロは移動してしまう。

レーダーで確認できなかったという話は、数分で数十キロは移動してしまうことを考慮に入れなかったために起きた勘違いだった可能性が考えられるのではないかという。

また無線に応答しなかったという話も、周波数の問題だという指摘が出されている。

細長い物体の正体

それでは映像の終盤に映っていた、謎の細長い物体についてはどうだろうか。これについては飛行機雲の可能性が高いと考えられている。

下の画像をご覧いただきたい。左はフルバージョン映像の9分8秒(画面の表示時刻では14時01分03秒)の画像で、右は同じ映像の9分9秒(同14時01分04秒)の画像。

同じ対象物を撮影した比較画像。

同じ対象物を撮影した比較画像。左が赤外線モード。右が通常モード。

色が違って見えるのは、左が赤外線モードで撮影されたもので、右は通常(可視光)モードに切り替わった際の映像であるため。この右の画像を見れば、明らかに雲のようなものであることがわかる。

雲が右方向に流れているのは、左(西)からの風の影響によると考えられている。

ちなみに赤外線モードの映像では、周囲と比べて温かいものが黒に近く映り、冷たいものが白に近く映る。しかし、ここでの温かい、冷たいというのは周囲と比較した場合の話であるため、黒く映っているからといって対象物が高温とは限らない。

これはミック・ウェストが行った次の実験結果をご覧いただくとわかりやすい。

色は周囲の温度によって決まる。

色は周囲の温度によって決まる。
(出典:https://www.metabunk.org/explained-contrails-appear-hot-in-thermal-imaging-because-the-sky-appears-very-cold.t8328/)

左上は元になる通常の画像で、ロウソクの火は飛行機のエンジン、4つの氷は飛行機雲を表している。このときの背景の温度は33度。

そして右上は、同じ物を赤外線カメラを通して撮影した画像。背景と比較して温かいロウソクの火は黒く映り、冷たい氷は白く映っている。

対して、左下は背景を空に変えた画像。こちらを赤外線カメラで撮影すると右下の画像になる。上空は寒くマイナスの気温であるため、空が背景だと火はもちろん、氷も白くはならず、暗く映る。

これは問題の映像において、上空で急速に冷やされているはずの飛行機雲が、なぜ黒く映っているのかを説明するという。つまり飛行機雲自体が温かいのではなく、周囲と比べれば温度が高いため、相対的に黒く映っているのだという。

注意が必要な赤外線映像

赤外線モードで撮影された映像については、他にも注意した方がいいことがある。それは飛行機などのエンジンから排出されるガスが、赤外線映像では、通常より大きく、ぼやけて見えることだ。

たとえばコンコルドが赤外線モードで撮影されている下の映像では、比較的近くからだと機体も映っていることがわかる。ところがカメラから距離が離れていくにつれ、機体はどんどん見えなくなり、代わりに後方に噴出されるガスが黒い楕円状に並んで見えるようになっていく。

Concorde FLIR

この黒い楕円状の物体は、あくまでもガスが赤外線カメラを通した場合に見えるものであって、実際に飛行物体がそのような形をしているわけではないことには注意が必要だ。

ただし、その黒い物体から、飛行物体の傾きなどを知ることが出来る場合がある。ミック・ウェストによれば、元の映像の前半に映っている黒い物体はピーナッツ状をしていて右に傾いているが、これは当時飛行していたIB6830便が北東方向に進路を変えようと右に旋回している状態と一致するという。(下の画像)

黒い物体の比較

左が元の映像の前半に映っている黒い物体。右は飛行機のエンジンがどのように見えるかを示したもの。(出典:https://www.metabunk.org/explained-chilean-navy-ufo-video-aerodynamic-contrails-flight-ib6830.t8306/)

また下の画像では、エンジンに見立てた4つのロウソクの火が、遠ざかるにつれて赤外線カメラではどのように見えるのか示している。

右のように遠ざかると4つには見えなくなる。

右のように遠ざかると4つには見えなくなる。
(出典:https://www.metabunk.org/explained-chilean-navy-ufo-video-aerodynamic-contrails-flight-ib6830.t8306/)

こちらは上の実験を映像で示したもの。遠い距離から撮影していたときは、ぼやけて楕円状に見えていたものが、近づくにつれて4つに分かれて見えることがわかる。

Four Candles Simulating the Heat Signature of an A340

このように赤外線カメラで撮影された映像には、対象物の実体がそのまま映るとは限らない。むしろ時には実体を隠し、誇張することさえあるようだ。

普段、見慣れないものでもあるだけに、こうした映像は見る人にインパクトを与えやすい。だからこそ、誤解も生まれやすくなってしまうのかもしれない。

【参考資料】

  • Leslie Kean「Groundbreaking UFO Video Just Released By Chilean Navy」『HuffPost』(https://www.huffingtonpost.com/entry/groundbreaking-ufo-video-just-released-from-chilean_us_586d37bce4b014e7c72ee56b)
  • 坂井学「チリ政府が公式認定したUFO映像が公開される! 黒い噴射物、ステルス性能… 謎すぎる特徴に全世界戦慄」『TOCANA』(http://tocana.jp/2017/01/post_11988_entry.html)
  • 「Chile Helicopter UFO – FULL」(https://www.youtube.com/watch?v=NkUTGpegZN0)
  • Metabunk「Explained: Chilean Navy “UFO” video – Aerodynamic Contrails, Flight IB6830」(https://www.metabunk.org/explained-chilean-navy-ufo-video-aerodynamic-contrails-flight-ib6830.t8306/)
  • Mick West「Curated Crowdsourcing in UFO Investigations」『Skeptical Inquirer』Skeptical Briefs Volume 27.1, Spring 2017(https://www.csicop.org/sb/show/curated_crowdsourcing_in_ufo_investigations)
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