『トリックといかさま図鑑 奇術・心霊・超能力・錯誤の歴史』は、元マジシャンで現在は実験心理学者の著者が、豊富なマジックの知識を軸に、サイキック(超能力者、霊能力者)とマジシャン、そして科学者たちのオカルトへの関わりを歴史的に解説している本です。
読む前の予想では図が大部分だと思い、文章から得られる情報は全然期待していませんでした。ところが実際に読んでみると、思いのほか文章の方も濃かったです。
本書は全体の約220ページのうち、図を中心としたページが約160で、文章中心のページは約60となっています。
書かれている文字は小さめ(単行本の図に付属するキャプションくらいの大きさ)で、それが改行も少なく、わりとびっしり詰め込まれていました。
そのため、おまけでちょこっと文章が書かれているというよりは、しっかりとしたコンテンツに仕上がっています。
ただし、サイキックたちのトリックを個別具体的にたくさん解説していくようなことはしていません。ですから、そうした内容を期待すると少し物足りなさが感じられるかもしれません。
とはいえ、トリックの解説自体はある程度載っています。また、19世紀から現代にかけての先述の歴史がよくまとめられており、読み応えがあります。知らなかった情報もけっこうありました。
中身が薄くなってしまう本の場合、「マジシャン」や「霊媒師」といった大ざっぱなくくりの言葉で、漫然と話を進めてしまうことがありますが、本書の場合は、適宜、具体的な個人名が出てきますので参考になりました。
また、本書では貴重な写真も数多く掲載されています。たとえば知る人ぞ知るマジシャンのウィリアム・マリオット。
彼の場合、日本はもとより、海外でも情報が少ないミステリアスな人物なのですが、その彼のトリック写真が高解像度で数多く掲載されているのです。それだけでもかなり価値があるでしょう。
本書は値段が3,960円と高めなのですが、これだけの写真を揃えている翻訳本であることを考えれば、高すぎるということはないと思います。
あと、本書はハードカバーのしっかりとしたつくりの図鑑で、デザインも優れています。本棚に置いても映えるのではないでしょうか。
総合的に、おすすめできる本です。
―目次―
イリュージョンへの招待
第1幕 初期の催眠術と心霊現象
第2幕 マジックの巨匠たち
第3幕 心霊研究家
第4幕 超心理学者
第5幕 錯覚の心理学
終幕 種明かし:ただのトリックにあらず
あとがき
参考文献/図版出典/索引