超古代の歯車か「4億年前の機械部品」

伝説

2012年3月、ロシア北東部、カムチャッカ半島のチギリ村から240キロほど離れた場所で奇妙な化石が発見された。

4億年前の化石

それが上写真の化石である。驚くべきことに時計やコンピューターなどの機械部品と思われる金属製の歯車が確認できる。

この化石を発掘し、分析も担当したサンクトペテルブルク大学の考古学者ユーリ・ゴルベフによれば、機械部品の年代はなんと4億年も前までさかのぼることが判明したという。

これはアメリカの地質学者によっても追試され、確かに機械部品であることが裏付けられている。

4億年前となると、定説では人類誕生のはるか以前の時代である。そんな時代に現代に匹敵する文明が存在していたのだろうか。それとも宇宙人が地球を訪れ、その痕跡を残していったものなのだろうか。

いずれにせよこのオーパーツ(場違いな遺物)は、遙かな太古の時代に、未知なる知的生命体が存在していたことを強烈に物語っている。(以下、謎解きに続く)


Photo by Weekly World News「400 MILLION YEAR OLD MACHINE」March 8th, 2012 (http://weeklyworldnews.com/headlines/45033/400-million-year-old-machine/)

謎解き

今回は時代が景気よく4億年前である。ビジュアル的にもわかりやすく、興味をそそられるオーパーツだ。そこでさっそく真相を調べてみることにした。

考古学者ユーリ・ゴルベフって誰?

まずこの【伝説】に一定の信憑性を与えているのは、発掘と分析を担当したとして名前が明記されている、サンクトペテルブルク大学の考古学者ユーリ・ゴルベフという人物の存在だ。

サンクトペテルブルク大学といえばロシアの名門。そこの考古学者が関わったというのなら、一見すると信用できそうである。しかし主張が主張なだけに裏付けはほしい。

そこで調べてみたところ、サンクトペテルブルク大学には確かに「ユーリ・ゴルベフ」という人物が在籍していることはわかった。

ところが……実はこの人物が在籍しているのはサンクトペテルブルク大学の量子光学研究所で、専門は物理学……。考古学とは何の関係もなかった。しかも、これは専門外の人物が関わっていたということでもなく、そもそも物理学者のゴルベフの方も今回のオーパーツとは何の関係もないことがわかった。

つまり名前だけ借りて、発掘と分析を担当したという「考古学者のユーリ・ゴルベフ」なる人物がデッチ上げられていたのである。これは同じく【伝説】に登場する「アメリカの地質学者」なる人物も似たようなものだった。こちらもその実在はまったく確認できないため、架空の人物である可能性がきわめて高いと思われる。

化石の正体はウミユリ

それではお墨付きを与えた人物が怪しいのであれば、写真に写っていた化石の正体はどうなるのだろうか? 最も可能性が高いと考えられる正体は「ウミユリ」である。

ウミユリとは、その名のとおり植物のユリに似た海の生物である。実はこのウミユリの化石を撮影した写真が海外のウィキペディアに掲載されており、今回のオーパーツはその写真の一部を切り取ったものである可能性が高いのだ。

ウミユリには細長い茎の部分があり、その茎の断面は円盤状になっている。機械部品の歯車のように見えるのは、その茎を構成する円盤状の骨板と呼ばれるもの。もともとウミユリは体の約90%が石灰質でできているため化石として残りやすい。

実際に見てみよう。次の写真はウィキメディア・コモンズにウミユリの化石として登録されている写真。

ウミユリ

確かによく似ている。というよりまったく同じだ。これはスペイン語版ウィキペディアの「デボン紀」(約4億年前の地質時代)のページと、中国語版ウィキペディア「海百合」のページで使用されている。(2016年4月現在)

そして上の写真の全体像がわかるのが次の写真。

400million3

これもウィキメディア・コモンズに登録されており、ドイツ語版フランス語版のウィキペディア「ジベーチアン」(デボン紀中期の時代区分)のページで使用されている。(2016年4月現在)

全体写真のどこが今回のオーパーツとして扱われているのかは、以下に示した。

400million4

登録者によると、この写真はフランスのリール自然史博物館に展示してある化石を撮影したものだという。ロシアの4億年前の機械部品とされたオーパーツの正体は、フランスの博物館所蔵のウミユリ化石だったのだ。

他にも似たようなウミユリの化石写真はある。たとえば「化石販売サイト」
「Science Photo Library」などを参照していただきたい。

ちなみに今回の話は、イタリアの「Zazoom」というサイトが話のネタ元だった(該当記事はすでに削除されている)。最初はおそらく記者がウィキの写真をたまたま見つけて、オーパーツとして利用することを思いついたのかもしれない。

それがアメリカのタブロイド紙『ウィークリー・ワールド・ニュース』などに取り上げられたことにより、一気に拡散したということのようだ。

結局、残念ながら太古の未知なる知的生命体の出番はなかったものの、現代の知的生命体(人間)の仕業であったことは確かである。

【参考資料】

  • Weekly World News「400 MILLION YEAR OLD MACHINE」March 8th, 2012
    (http://weeklyworldnews.com/headlines/45033/400-million-year-old-machine/)
  • The Voice of Russia「カムチャッカ半島で4億年前の機械装置が見つかる」2012年3月16日
    (http://japanese.ruvr.ru/2012_03_16/68676261/)
  • Yuri Golubev「Quantum Optics Lab」(http://quantopt.phys.spbu.ru/personalia_1.htm)
  • 「Misterioso Fossile in Russia : Astronave Antica?」
    (http://informiamo.altervista.org/blog/misterioso-fossile-in-russia-astronave-antica/)
  • LiveLeak.com「Internet Hoax About 400 Million Year Old Machine」
    (http://www.liveleak.com/view?i=3c1_1331347703)
  • Wikimedia Commons「File:FossileLaudonomphalus regularisP1.jpg」
    (http://commons.wikimedia.org/wiki/File:FossileLaudonomphalus_regularisP1.jpg)
  • Wikimedia Commons「File:FossileLaudonomphalus regularis.jpg」
    (http://commons.wikimedia.org/wiki/File:FossileLaudonomphalus_regularis.jpg)
  • ショアン・ベール『動物の大世界百科』(日本メールオーダー社、1975年)
  • シリル・ウォーカー, デビッド・ウォード『化石の写真図鑑』 (日本ヴォーグ社、1996年)
  • 地学団体研究会『新版 地学事典』(平凡社、1996年)
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