伝説
イスラエル出身の超能力者リオー・スシャールは、世界超能力コンテストで優勝した実力者。あの世界的な有名な超能力者ユリ・ゲラーが唯一、正式な後継者として認めた人物である。
そんなリオーはスプーン曲げはもちろん、念動力、未来予知、透視などが行える。だが彼が最も得意とするのは脳内リーディングだという。人が思っていることを読みとれるのだ。
彼にかかれば、どんな情報も筒抜けになる。(以下、謎解きに続く)
謎解き
リオーは日本の番組にたびたび登場している。やっていることはほとんどマジックと同じであっても、彼がそれを認めることはない。あくまでも「マジックではない」のだという。本当だろうか。
以下では、彼がこれまでに出演した番組の中から、いくつかのパフォーマンスを選んで検証した結果をまとめてみた。
何度でも100%確実に当てられる
2009年12月15日に放送された番組「お茶の水ハカセ」(TBS)で披露されたパフォーマンス。
現象
丸めたお札を出演者の手の中でわからないように握ってもらい、左右どちらの手にお札があるか100%確実に当てる。
謎解き
これはマジック。実際にマジック道具の実演販売をしている動画もある。「第三の目」という演出を除けばほぼ一緒。値段は3200円(数年前より値下がりした)。販売元のマジックショップ「フェザータッチMAGIC」に商品の詳しい説明があるので興味がある方はどうぞ。
ちなみにリンク先では「週刊新潮(’10年12/23日号)で、リオー・スシャールも演じていた『4500円で売っている超能力者のネタ』として紹介された商品がこれです」と書かれているが、当時その記事を書いたのが私。
まさかリオーも、マジックショップから元ネタはこれです、と指摘されてしまうとは思っていなかったかもしれない。
触れていないのに相手に感触が伝わる
2009年12月15日に放送された番組「お茶の水ハカセ」(TBS)で披露されたパフォーマンス。
現象
出演者の木梨憲武に目をつぶってもらい、リオーが別の出演者の森三中・村上の顔の一部を指で触る。するとあら不思議、木梨も同じ所を触られたと感じる。
謎解き
番組では以下のように、「左手で知子ハカセを触っている間、リオーの右手は憲武ハカセに一切触れていない」と説明していた。
本当はこの場面の数秒前に触っている。以下がそのシーン。手は触れていない? 実はその手と手の間にある見えないものがポイント。
リオーが使っていたのはマジック用の糸。専門用語では「ジャリ」とか「インビジブル・スレッド」と呼ばれている超極細の糸。これを彼は以下のように両手の間で伸ばし、それで木梨の顔(鼻)をこすっている。
こちらはその前のパフォーマンスのシーン。このときはアゴを触っていた。
木梨と村上の2人の顔に触れるのには実際には数秒の時間差があるものの、木梨は目をつぶらされているのでその時間差に気づきにくい。そこがミソ。
リオーは別の番組でも同じパフォーマンスを見せている。下は2011年に放送された「ビートたけしの超常現象Xファイル」でのシーン。例のやり方で顔を触っている。
これらは静止画で見るとわかりやすい。でも実際の番組では、この動作はリオーが話しながらするジェスチャーの中に紛れている。しかもほんの一瞬なので、注意して見られなければ、気付かれることはほとんどない。
相手の頭の中を読む
2011年12月24日に放送された番組「ビートたけしの超常現象Xファイル」(テレビ朝日)で披露されたパフォーマンス。
現象
事前準備なしをアピールするかのように、番組収録の休憩中、出演者の大槻教授に対し、突然リオーが透視実験を申し込む。大槻教授はそれを受け、自らもっていた紙に隠れてある数式を書く。紙は見えないように折り畳まれ、リオーによってバラバラに破かれる。
破かれた破片は封筒に入れられ、大槻教授が厳重に保管する。もう数式が書かれた紙はバラバラで見られない状態。ここからリオーは大槻教授の頭の中にある数式のイメージを読み取り、見事に数式を一致させる。
謎解き
これは「リオーが紙を破く」という、明らかに不要な手順が入っていることがポイント。書かれている数式は、このときに盗み見ている。
でもしっかり折り畳まれた紙を破いたら、数式もバラバラの紙片になってしまうはずでは? と思われるかもしれない。実はバラバラにならないコツがある。
これは昔からある古典的なテクニックで、以下のように四つ折りにした紙を手順どおり破くと、紙の中央に書かれた部分は破れずに残るようになっている。
手順は次のとおり。まず紙の中央あたりにターゲットを書く(大槻教授も真ん中に書くよう指示されていた)。ここではわかりやすくするために赤丸を書いた。
続いて左右に真ん中で折る。
今度は上下に真ん中で折る。これで四つ折りにされた紙ができた。このとき、ターゲットは左上に折り畳まれている。なので、ここを破かないように他を破っていく。
左右に真ん中で破る。
紙片を重ねて……
向きを変えたら、また左右に真ん中で破る。ターゲットはまだ破れずに残っている。
ターゲットが上にくるように紙片を重ねる。
わかりやすくするためにここで紙片を確認してみると、こんな感じで小さな紙片がたくさんできている状態。でもターゲットは、バラバラにならず、左下の紙片に残っている。
広げて見ると、このとおり。バラバラに小さく破いているように見せつつ、実際は真ん中は破れずに残るようになっている。なので、あとはこのターゲットが書かれている紙片を広げて盗み見れば中身がわかる。
ターゲットを見るときは、さらに破くフリをして手の中で広げるのがコツ。下はリオーが紙片を広げる直前の様子。手で挟んでいる。
紙片を手で隠しつつ、自分の方に広げてターゲットを盗み見ている瞬間の様子。
大槻教授にあらためてターゲットを書いてもらって答え合わせの様子。ターゲットを盗み見られる時間は1秒ほどなので細かいところはあやふや。でもテクニックを駆使してがんばった。
【2016年6月1日追記】
2016年5月27日放送の「奇跡のチカラの謎を解け!世界超常能力TV」という番組にリオー・スシャールが出演した。彼を検証すると種明かしのようになってしまうのは心苦しい。けれども相変わらずマジックを超能力だとしているため、なにとぞご容赦願いたい。
ここではスタジオでのパフォーマンスに絞る。出演者がその場で1~100までの数字の中から好きな数字を選んでリオーが当てるというものは、スワミ・ギミックというマジック道具を使っている。
これは相手に先に答えを言わせるのがポイント。リオーは書き終わってペンを持っていなくても、親指にあるギミック(仕掛け)を使って紙に書くことができる。答えがわかった瞬間に書いているので時間は2秒もあれば十分。
下の画像は番組での様子。出演者の小薮とリオーは答え合わせの前にペンを渡していて、この時点では持っていない。でもここからが本番。
書いた答えは小薮が先に見せる。このとき、スタジオ内のモニターの一台にはリオーの様子が映っていて、まだ彼は答えを見せていないのがわかる。彼がスケッチブックを裏返して答えを見せるのは、この後。
実はよく見るとリオーがスケッチブックを裏返すとき、右手の親指に仕込んであるギミックが一瞬だけ映る。
相手に答えを先に言わせる場合は、基本的にこの後出しジャンケン。時計の針を予言するのは遠隔で針を動かせるギミックの時計を使っている。
ただし最後の、出演者に絵を描いてもらっておき、その絵を見せる前に、リオーが先に絵を見せるパフォーマンスはこういったやり方とは違う。このタイプは基本的に書いてもらう紙(パッド)の方に仕掛けがある。
こういったギミック(たくさんバリエーションはある)の場合、番組と同じように相手が誰にも見られずに書き、書いた紙を肌身離さず厳重に保管していてもまったく問題なく書いた内容を読み取れる。
番組では紙に書くところが放送されなかったため推測にはなるが、おそらく使われたのはこのタイプのギミックで、回収してわかった答えを現場にもいた関係者がリオーに伝えていたのだと考えられる。
未来を予知する
2010年12月22日に放送された番組「ビートたけしの超常現象Xファイル」(テレビ朝日)で披露されたパフォーマンス。
現象
リオーが離れたところで、ある単語を書く。紙は封筒に入れられ、すり替えができないように封をし、封じ目には出演者にサインをしてもらう。封筒は最後まで大槻教授が持つ。
次に用意されたたくさんの新聞の中から、大槻教授が好きな新聞を一部選ぶ。今度は選ばれた新聞の中から番組アシスタントの江口ともみが好きなページを選ぶ。そして、そのページの中からリオーの指を使って江口が自由に単語を選ぶ。(選ばれたのは「ホテル」という単語)
最後に、封筒から紙を出して確認してもらうと、自由に選ばれたはずの単語は、リオーが最初に書いていた単語と見事に一致する。
謎解き
このパフォーマンスでとくに不自然だったのは、選ばれた紙面が最後まで画面に映らず、隠されていたこと、さらには単語を選ぶときにリオーの指を使わせたこと。
演者の指を使って選ばせるのは、マジックの「フォース」(自由に選ばせているようにみせて実は強制的に選ばせるテクニック)の一種。これを使っている時点で「未来予知」という主張はかなり怪しい。
実際、江口ともみが「ホテル」という単語を選んだことを知った他の共演者の大竹まことは、「何でもっと難しい漢字を選ばないんだ」とツッコミを入れていた。それに対し江口は「いやだって、ぐるぐるぐるぐる選んでいって……」と不本意そうに答えている。
指を回しながらターゲットに近づけて選ばせるというのは、フォースではおなじみのテクニック。本当に自由に選ばれたわけではなく、リオーが選んでほしい単語を選ばされたということ。
それでも、もし自由に選んだ新聞の自由に選んだ紙面に「ホテル」という単語があった場合は、最後だけフォースを使っていても十分にすごい。けれども実際はなかった場合、選ばれた紙面はリオーが仕込んだもの、ということになる。
はたして本物の紙面には「ホテル」という単語があったのだろうか? 私はこれを検証してみた。幸い、番組では選ばれた新聞の一面が映っていた。そこから調べてわかるのは、選ばれた新聞が2010年10月10日付けの『朝日新聞』だということ。
次に番組では紙面を選んだ際、見開きの残り半分を折り返していたため、選ばれた紙面の対になる紙面が確認できる。
この映像をもとに10月10日の朝日新聞を確認していくと、26面に同じ構成の紙面が見つかった。番組と同じく見開きの右側にあるページ。ということは対になる左側のページが、番組で選ばれたページということになる。
ただし、ここで注意が必要。朝日新聞では同じ日付けでも地方によって内容が異なる。具体的には東京、大阪、西部、名古屋、北海道と5つに分かれている。私が朝日新聞に問い合わせて調べてもらった結果によれば、10月10日付けの26面の記事のうち、番組と同じ紙面構成だったのは東京本社によるものだけだった。(版の違いも含めて)
つまりそこから最終的にわかるのは、番組で選ばれたのが2010年10月10日付け東京版『朝日新聞』の13版、第27面だということである。はたしてこのページに「ホテル」という単語は記載されているのだろうか?
気になる検証の結果は……載っていなかった。どこにも「ホテル」という単語はなかった。つまりフォースが使われた紙面は本来の27面ではなく、リオーが仕込んだものだったということ。
仕込み方や選ばせ方はいくつか考えられるが、残念ながら番組では肝心なシーンがいくつかカットされているため、はっきりしたことは言えない。
けれども最終的に選ばれたとされる本来の紙面に、リオーが予知したという「ホテル」の単語がなかったことははっきり言える。彼が予知していなかったことは明かだろう。
【参考資料】
- 「お茶の水ハカセ」(TBS、2009年12月15日)
- 「ビートたけしの超常現象Xファイル」(テレビ朝日、2010年12月22日放送)
- 「ビートたけしの超常現象Xファイル」(テレビ朝日、2011年12月24日放送)
- 『朝日新聞』(2010年10月10日付け、13版、第27面)